
SHIPS MAG 読者の皆さん、こんにちは。
『スペクテイター』編集部の青野です。
20周年を迎えた本誌の歩みを振り返る連載。
4回目の今回は21号から34号目までのエピソードを対話形式でお伝えします。

特集:From Oregon with DIY 2009年12月18日発行
連載4回目、今回は21号以降のエピソードを紹介します!
21号目の「From Oregon with DIY」号は2009年12月発売。この年の夏から秋にかけて、北米オレゴン州ポートランドにカメラマンの三田正明くんと2週間ほど滞在しながら取材をしてつくった号だね。
過去に本誌にも何度か原稿を書いてくれたことがあるマイケルというアメリカ人がいるんだけど、彼からポートランドがいかにユニークかという話を聞くうちに興味が湧いて取材に出かけることにしたんだよね。

特集:From Oregon with DIY 扉 写真/三田正明
マイケルはポートランドが地元だったっけ?
そう。実家があって、ポートランドの大学にも通っていた。
スティーブ・ジョブズも通ったという噂のリード大学だね。
いわく、ポートランドには変わり者が多い、と。
そういえば、「Keep Portland Weird」(「変わり者でいこう!」という意味)というステッカーを貼った車をよく見かけたな。
そんな変わり者が暮らす街には元ヒッピー的やリベラルな考え方の人たちが多く暮らしている。その影響か、ポートランドには自立自存の精神が根付いているらしい。自由と平等と自然を愛する彼らは、コミュニティづくりも仕事も人任せじゃなく、なんでも自分たちで手作りする気運があると。
なんでも自分でやってみよう=D.I.Y.(ドゥ・イット・ユアセルフ) 精神が根付いているというわけだね。

特集:From Oregon with DIY 「PORTLAND ZINE SCENE」
そのせいなのか、街では大きなモールとかも見かけなかったし、大手ブランドの直営店とかも少なかった。その代わりに手作り感のある個人経営の店が多かった気がする。街路樹や公園の緑も豊富だし、自転車専用道路が網羅され、ZINEカルチャーも盛り上がっていたりして、確かに暮らしの主役は企業や政府じゃなくて個人というか、市民ファーストな雰囲気だったんだよね。中古レコードとか古書とか古いものを売る店も多くて、街を歩いているとヒッピーの時代にタイムスリップしたみたいな気分にもなった。街の個性というのは、どうやってつくられているか。ポートランドをモデルに探ってみたいという気持ちがあったんだけど、ちょっとわかった気がした。

特集:WORKING!! 再考・就職しないで生きるには? 2010年7月21日発行
22号「WORKING!」は、仕事をテーマにした内容だったね。
「再考・就職しないで生きるには?」の副題が示す通り、水パイプ喫茶とか、改造リサイクル自転車店とか、それまでの常識に捕われない発想で独自の仕事を立ち上げた個人の体験談を集めた特集だ。
2年前のリーマンショックなどの影響から景気が後退したせいで大学卒業者の就職率も60%にまで落ち込んで、就職難民とか派遣切りとかいう言葉をよく耳にするようになった。

特集:WORKING!! 再考・就職しないで生きるには?
会社に就職できないなら自分で仕事をつくるしかない! ということで、逆境を乗り切って逞しく仕事をしている人たちの体験談を集めて記事にしたら、これが予想外の反響。

特集:WORKING!! 再考・就職しないで生きるには?
どうやって稼ぐか?ということだけじゃなく、いかに生きるか?についても考えさせられながら編集したんだったっけね。
仕事と生きるは同義だなと。

特集:WILD WILD EAST TAIWAN 台湾縦断 自転車紀行 2011年3月11日発行
23号は「台湾」特集。
よく知られる台北には触れずに、そこから南へ下った台南とか台東といわれる南東エリアを主に取材することにした。隣国でありながら実はあまりよく知らなかった台湾の歴史や人々の暮らしに触れてみようということで、自転車に乗って旅をしたりしながら現地の人と交流したんだよね。途中で温泉を見つけて立ち寄ってみたりして。
知らない国を自転車で旅するって楽しいんだよね。車や電車だったら通り過ぎてしまう小さなことが目に入ったりするし。

特集:WILD WILD EAST TAIWAN 台湾縦断 自転車紀行 扉
この号が刷り上がった2011年3月11日、いつものように自家用車で都内の販売店へ新刊を配本をしていた最中に東日本大震災が起きた。

特集:WILD WILD EAST TAIWAN 台湾縦断 自転車紀行
震災、津波、原発事故、東北を中心に日本は過去に例を見ないほどの大規模災害に見舞われた。
僕らも気が動転してしばらくは途方に暮れていたけど、いろいろ思うところがあって7月に長野市へ編集部を移すことにしたんだ。

特集:これからの日本について語ろう 2011年11月21日発行
その年の秋に出したのが24号「これからの日本について語ろう」特集だったね。
山梨で農業をしながら反原発を唱えていた俳優の菅原文太さん、あたらしいライフルタイルを提唱していた高城剛さん、農業の歴史を研究されている大学教授、難病患者でありながら作家活動を続けている方などに「これからの生き方」について訊ねた。

特集:これからの日本について語ろう 写真/グレート・ザ・歌舞伎町
みなさんとの対話を通じて、日本の社会の問題点と次の時代へと向かうためのビジョンが少しづつ見えてきた。

特集:これからの日本について語ろう 写真/グレート・ザ・歌舞伎町
自家発電的、自立的なアイデアが大きなテーマといえるかも。都市のシステムに頼りすぎない。貿易に頼りすぎない。政治に頼りすぎない。薬や病院に頼りすぎない。

特集:GROW OUR OWN これからのコミュニティ 2012年6月5日発行
25号も「これから」という言葉をタイトルに付けた特集だったね。
「これからのコミュニティ」について具体的に考えるというものだった。「GROW OUR OWN」(自分たちの暮らしは自分たちで育もう)という副題を冠して、熊本に移住して新しい暮らしを築き始めた人たち、都市型パーマカルチャーを提唱する共生活動家のソーヤー海くん、電気を使わない暮らしのための道具を生み出す発明家の先生などに、これからの暮らしのあり方について話を聞いた。

特集:GROW OUR OWN これからのコミュニティ 写真/グレート・ザ・歌舞伎町

特集:GROW OUR OWN これからのコミュニティ 写真/グレート・ザ・歌舞伎町

特集:OUTSIDE JOURNAL 2012 2012年11月22日発行
26号は「OUTSIDE JOURNAL」。アウトドア・カルチャーにまつわる記事を集めた特集だね。
50年代末のアメリカで消費社会に背を向けてリュックサックを背負って山を歩き始めた「ダルマふうてん」について書かれたジャック・ケルアックの言葉から始まって、深い自然のなかで楽しむアウトドア・スポーツとその周辺のカルチャーを取り上げたんだよね。これまでアウトドアというと週末のレジャーという感じだったけど、より日常化してきてアウトドアを中心としたカルチャーやコミュニティが成熟してきた気がした。会社に勤めながらオリジナルのアウトドア道具を自作して販売するMAKERと呼ばれる人たちが出てきたり。

特集:OUTSIDE JOURNAL 2012

特集:OUTSIDE JOURNAL 2012 写真/三田正明

特集:OUTSIDE JOURNAL 2013 野生のレッスン2013年8月31日発行
「OUTSIDE JOURNAL2」と題した28号は、その続編ということになるかな。
アウトドアからもう一歩進んだところで野生的な生活を実践している人たち、たとえば猟師とか、豚を飼育している作家さん、自然農に取り組むライターさんと、山間部に居住する人たちなどに、自然に対する考え方などを聞いたんだよね。

特集:OUTSIDE JOURNAL 2013 野生のレッスン「猟師の世界」

特集:OUTSIDE JOURNAL 2013 野生のレッスン「失われた「自然」を求めて」

特集:小商い 2013年4月26日発行
27号の「小商い」も大きな反響があった、仕事に関する特集号だ。「小商い」を強引に英語にするとスモールビジネスとかマイクロビジネスということになるかな。
ざっくり言えば個人が少資本でスタートできるような小さなビジネスのことだけど、取材をしていくうちに小商いというのは単に小規模ビジネスのことだけではなく、人や地域とのつながりとか、自分のなかでの新たな気付きとか、愉しみの要素とか、それをやることで得られるお金以上の価値があるものだということがわかってきた。

特集:小商い 「小商いが教えてくれたこと」写真/吉崎考介

特集:小商い 「やってみた体験記「ワンデーストア」ができるまで」イラスト/勝川克志

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog 2013年12月20日発行
29号と30号は、60年代後半にアメリカで出版され大ベストセラーとなった伝説のカタログ「ホール・アース・カタログ」特集だ。これも大評判の号になったね。
そのカタログの中身を乱暴に説明すると、ヒッピー的な自給自足生活を送るために役立ちそうな道具とか知識を得るための本とかを網羅した、自立生活の手引き書みたいな本という感じか。

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でおこなった講演のなかで「人生で最も影響を受けた本」と紹介したことで世界的にこのカタログに対する再評価の気運が高まったんだよね。

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog
ジョブズが言及したおかげでカタログに記されていた「STAY FOOLISH, STAY HUNGRY」という言葉にも注目が集まった。コメントを集めて記事化するようなコンテンツはフェイスブックの原型とも言えるという評価もされたりして。

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog 2 2014年4月30日発行
主にIT関係の人たちが高い関心を示していたね。
後編の30号では、当時の編集スタッフに会いに行くためにサンフランシスコへ飛んだんだけど、肝心の創刊編集長スチュワート・ブランドからの返事がもらえずハラハラしていたんだけど、直前に「明日だったら空いてるよ」というメールが届いて、なんとかインタビュー取材することができた。

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog 2 特集扉

特集:SEEK & FIND Whole Earth Catalog 2

特集:ZEN 2014年8月31日発行
31号は「ZEN」特集。いわゆる禅の特集なんだけど、禅の世界って謎に包まれている印象があったんだけど、アメリカから逆輸入された禅(ZEN)を通してその本質を理解するというような内容だったね。
前号でジョブズのことを調べていたら、彼も若い頃に禅に魅せられたという話を知って、つまりジョブズからのZENということになったんだけど。
ジョブズ以外にも禅に魅せられた外国人は多いようだね。
ジョン・ケージとかゲーリー・スナイダーとかジェリー・ロペスとか、意外な有名人も禅に影響を受けたことがわかって興味深かった。この特集のあとに他の雑誌でも禅特集が組まれてちょっとしたブームみたいになっていたね。

特集:ZEN

特集:ZEN 写真/三田正明

特集:ボディトリップ 2014年12月11日発行
32号は「ボディトリップ」特集。
トリップといってもドラッグを摂るとかではなく、さまざまなボディワーク体験を通じて普段とは異なる精神状態になるという意味でボディトリップと付けたんだ。気鋭のライターたちが内蔵マッサージとか湯治とか太極拳とか異なるボディワークを体験取材して、そのときの状態をトラベルライティング風に活字化するという。

特集:ボディトリップ イラスト/森脇ひとみ

特集:ボディトリップ イラスト/東陽片岡

特集:クリエイティブ文章術 2015年5月12日発行
それぞれ起承転結があったりして面白く読み応えのある特集になったね。次の33号「クリエイティブ文章術」も、いつにも増して文字量の多い読み応えのある号になった。
活字を通じて表現活動をおこなっている人に向けた特集だね。SNSやブログなどのインターネットメディアが一般化するにつれて、文章で自己表現をする人が増えてきたから、クリエイティブな文章とは何かということを考えてみたくなったんだ。

特集:クリエイティブ文章術

特集:クリエイティブ文章術

特集:ポートランドの小商い 2015年8月31日発行
この特集が出てからわずか4年のあいだに活字から動画の時代になっちゃった感もあるけど。さて、今回の最後、34号は「ポートランドの小商い」。
冒頭でポートランドには個人経営の店が多いと言ったけど、それぞれの店がどのようにして商売を営んでいるか。一軒一軒突っ込んだ取材をしてみたいと思っていたんだ。そこで、2015年の夏に現地に3週間ほど滞在して、10組近くの小商い系の店主たちに取材をおこなった。ビールのブリュワリーとか、レンタルDIYスペースとか、ドーナツショップとか、中古レコード店とか、いかにもポートランドらしい商売を営む人たち。みんなプライドと熱意をもって商売に取り組んでいて感心した。

特集:ポートランドの小商い
というわけで、ポートランドに始まりポートランドで終わった「スペクテイターの20年の足取りを振り返る連載」。この続きはまた今度。最新号は11月29日発売ですので、そちらの方もどうぞよろしく!

特集:ポートランドの小商い
















特集:From Oregon with DIY
2009年12月18日発行/B5版変型(H242*W182)192ページ/定価952円(税別)
ポートランドに根づくDIY精神と街の文化を他誌に先駆け伝えて話題になった海外取材特集号。「FROM OREGON WITH DIY」写真/三田正明、文/青野利光、「Book Scouting Tour in The Pacific Northwest 2009」文・取材/山路和広、「山伏と僕」文・イラスト/坂本大三郎、「証言構成『COM』の時代」文/赤田祐一、「Apocalypse ’60S 金坂健二」文/北沢夏音、「In Search of Spirit」文/関口易正、「AFTER NIMBIN WHAT?」文/植村ワタル、「How Green is My Island」文/ラニ・サネク、写真/岩根愛、他。

発売/2019年11月29日
特集:日本のヒッピー・ムーヴメント
◆まんが版 日本のヒッピー・ムーヴメント
作画+原作/関根美有+赤田祐一(編集部)
第1章 Early Days
第2章 Bum Academy
第3章 The Tribes
第4章 Shinjuku 1967
第5章 Commune
第6章 Alternative Media
第7章 Then and Now
◆川内たみさんに聞く「たべものや」ができるまで
◆あぱっち氏に聞く 新聞・部族・ヒッピー
◆部族の聖地 スワノセ・レポート「詩人・長沢哲夫との対話」取材・文・撮影/マエバラトモヒコ
◆コミューンは僕らの学校だった 文/神崎夢現
◆キャプテン・トリップ・レコード代表 松谷 健氏に聞く 日本のヒッピー・ミュージック
◆消えた人気漫画家・井上英沖──元・担当編集者・鈴木清澄氏に聞く
◆Who's Who 日本のヒッピー 関連人名辞典
◆ヒッピー・ムーヴメント年表
◆ヒッピー用語の基礎知識
◇連載 はみだし偉人伝 その2「スーパーエディター、秋山道男氏を偲んで」文/美濃 修

1967年生まれ。エディトリアル・デパートメント代表。大学卒業後2年間の会社勤務を経て、学生時代から制作に関わっていたカルチャー・マガジン『Bar-f-Out!』の専属スタッフ。1999年、『スペクテイター』を創刊。2000年、新会社を設立、同誌の編集・発行人となる。2011年から活動の拠点を長野市へ移し、出版編集活動を継続中。