プロデューサー河合氏&鈴木晴生が明かす「The three WELL DRESSERS」の舞台裏 プロデューサー河合氏&鈴木晴生が明かす「The three WELL DRESSERS」の舞台裏

プロデューサー河合氏&鈴木晴生が明かす
「The three WELL DRESSERS」の舞台裏

2020年6月に発売された書籍「The three WELL DRESSERS」。信濃屋顧問・白井俊夫氏、ユナイテッドアローズ クリエイティブ アドヴァイザー・鴨志田康人氏、そしてシップス クリエイティブアドバイザー・鈴木晴生の3名をフィーチャーし、それぞれのファッション遍歴をたどりながらウェルドレッサーのスタイルを掘り下げた話題の新刊です。完成までには数年を費やし、さまざまな苦労もあったとか。その制作にまつわる四方山話を、プロデュース&ディレクションを手がけた河合正人氏と鈴木が語ります。

――今回、「The three WELL DRESSERS」を企画発案された理由はなんだったのでしょうか?

河合そもそも当初は、鈴木さん、白井さん、鴨志田さんお一人ずつに絞った別々の書籍を刊行したいと考えていたのです。2015年に日本のウェルドレッサー130人を撮影した「JAPANESE DANDY」、2017年にその派生企画である「JAPANESE DANDY MONOCHROME」という二冊の写真集を出版したのですが、出演いただいた方の中でも服飾の業界人としてのお三方のスタイルに興味を持ちました。そのお三方をより掘り下げた内容は読者も興味あるのでは、と思いました。そうして構想を練っているうちに、いくつかの興味深い事実を発見したのです。

――というと?

河合まず、お三方の年齢がちょうど10歳ずつ違うということ。そして、皆さんアメリカのスタイルをルーツとして居られるのですが、和製アイビーではなく進駐軍の装いからファッションに目覚めた白井さん、一時期VANに在籍し、作り手としてもアイビー文化に携わってきた鈴木さん、そしてVAN少年として育った鴨志田さんという具合に、それぞれ異なった立ち位置であったことにも興味を惹かれました。そこで、もともと個別企画として考えていたお三方の本をひとつにまとめることで、戦後の日本ファッション史における一断面を切り取り、俯瞰して眺めることができるのではと思うに至ったのです。

――なるほど、とても興味を惹かれる背景ですね。鈴木さんはそのお話を受けたとき、どのように思われましたか?

鈴木とても嬉しいお話でしたし、意欲的に取り組みたいと思いましたね。私が以前に刊行した書籍の中でも自分の服飾遍歴について触れる機会はありましたが、より掘り下げてじっくりと語らせていただくにはとてもよい機会だと感じました。雑誌などの取材ではなかなかお伝えしきれない、私のスタイルを形づくった根底の部分まで取材していただいて、自分としても大変満足のいく内容にまとめていただきましたね。数年という時間をかけて、何度も取材や撮影に臨みました。衣装ケース2箱ぶんくらいはある昔の服や資料をスタジオまで運ぶのはなかなか難儀でしたけれど(笑)、労力に見合った出来になっていると思います。

河合今回は鈴木さんのご自宅にまでお邪魔していますから、かなりプライベートな部分にまで入り込んでの取材となりました。鈴木さんご愛用のヴィンテージカーも登場しています。実は当初、ご自宅での撮影をする予定はなかったのですが、鈴木さんに思いがけず「ウチにも来てみる?」とおっしゃっていただいて、遠慮なくお邪魔させていただきました(笑)

――それは力作ですね。今回のプロジェクトはご自身のスタイルを改めて振り返る機会でもあったと思いますが、鈴木さんが考える最も重要なエッセンスとは何でしょうか?

鈴木ルーツはやはりアメリカです。小さいときから当地のカタログや雑誌をパラパラとめくりながら、アメリカのスタイルに対する憧れを膨らませていました。18歳でVANに入社するのですが、当時は世間であまり知られていませんでしたね。そこからアイビーブームに火がついて、時代の一大潮流に作り手として参加できたのは貴重な体験だったと思います。それから、当時のハリウッド映画からも多大な影響を受けました。「MEN’SCLUB」のようなファッション誌も読んでいましたが、服装だけでない所作の美しさ、ライフスタイルとしてのファッションを学んだのは映画からでしたね。そんな具合で、当初はアメリカン・トラディショナルにどっぷりと浸かっていて、“トラッドは不滅だ”と信じて疑わなかったのですが、’70年代中盤あたりになってくるとヨーロッパの空気が入ってきて、固定観念を覆されました。ウィメンズで流行したニュートラをVANでも取り入れたりして、アイビーも変化していったんです。その後もブリティッシュの流れが入ってきたりして、ファッションはどんどん多様化していきました。自分もリアルタイムでそれを経験してきて、最終的には“過去をふまえつつ進化を続けること”こそ大切だと思うようになりましたね。

河合鈴木さんが世界的なウェルドレッサーたるゆえんはそこにありますよね。白井さん、鴨志田さんも同様ですが、みなさんクラシックやトラディショナルという確固とした基盤がありつつ、常にアップ・トゥ・デートな装いを追求していらっしゃるのが素晴らしいと思います。

鈴木“新鮮な今日”をいかに実践し、お客様に提案できるかは私が普段から心がけていることのひとつです。毎日報道されるニュースなど些細なことからもヒントを得て、どういった提案が世の中に響くのかということを日々模索していますね。

――話は変わりますが、新しい生活様式のもとで様々な価値観が大きく変わる今、ファッションのあり方はどのように変化していくと考えますか?

鈴木トレンドを身につける時代から、主義や嗜好といった内面的な部分が重要になってくると思います。今まではメディアから情報を摂取して、それを自身のファッションに取り入れていくというやり方が主流でしたが、これからは個人の“世界観”が説得力を持った提案として存在感を増していくのではないでしょうか。そんな今だからこそ、「The three WELL DRESSERS」は意義のある本だと思いますし、今回参加させていただいたことをありがたく思いますね。

河合プロジェクトを進めていくうちに改めて実感したのが、ウェルドレッサーでいらっしゃる方はライフスタイル自体も”WELL“なんだな、と。生き方そのものが充実しているからこそ、お三方はひときわ魅力的に映るのでしょうね。ライフスタイルとしてのファッションをもっと楽しめれば、これからさらに発展していくのではないでしょうか。衣食住は生活の三大要素ですから、ファッションを楽しまないのはもったいないですよね。「JAPANESE DANDY」制作時に印象的なエピソードがあるのですが、撮影を担当していただいた大川直人さんは当初「俳優でもモデルでもない人の写真集が成立するのか?」と心配していました。でもいざ撮影を始めてみると皆さんすごく絵になって、大川さんもどんどんやる気になっていったんです。その理由は、皆さん洋服を心から楽しんで、自分のライフスタイルに溶け込ませているから。ファッションは人に自信を与えてくれるものだと改めて感じました。。

河合「The three WELL DRESSERS」は、日本を代表するウェルドレッサーたちの人生を一冊にまとめた本です。そして各方面からご好評をいただいている「JAPANESE DANDY」、「JAPANESE DANDY MONOCHROME」からスピンオフした作品でもあります。それを読んでいただくことで、ご自身のスタイルを築くうえでの大きなヒントにつながると思いますし、ファッション史を彩ってきた様々なブランドの変遷を知ることもできます。もちろん単純にフォトブックとしてご覧いただいてもいい。いろいろな楽しみ方ができる本ですので、是非ご一読いただきたく思いますね。

鈴木とても読み応えのある一冊ですね。この本が出てから、初対面の方に「鈴木さん、本読みましたよ」と声をかけられる機会が何度かありました。そんなふうに「The three WELL DRESSERS」が新しい方を繋いでくれるのが何より嬉しかったですね。この本を通して、自分とは世代の違う方々に新しい発見をもたらすことができれば幸いです。

The three WELL DRESSERS / ¥3,400(tax)

PROFILE

河合正人

1958年京都府生まれ。’86年に河合正人花事務所を設立し、 フラワーコーディネートで農林水産大臣賞をはじめ多くの賞を受ける。2015年に刊行した「JAPANESE DANDY」で一躍ファッション業界にもその名を知られる存在に。

鈴木晴生

1947年東京都生まれ。VAN、テイジンメンズショップ、エーボンハウスを経てシップスに参加。アイビーから続く多種多様なファッション・ムーブメントをリアルタイムで経験。トラッドをベースにしつつ時代性を取り入れたスタイルで世界的な注目を集めている。