SHIPS WOMEN

JOURNAL

一説によると山形県はジンギスカン発祥の地と言われます。羊毛がたくさん取れることと寒い気候によりメリヤス業が栄えたのですが、なかでも山辺町は酸性が強く染色に適した水質の須川が流れ、ニット工場をつくるのに適した場所だったと言えます。しかしバブル崩壊以降多くのアパレル会社が生産拠点を東南アジアに移したことにより、ピーク時は50社あったニット工場が数社に減少。日本で流通しているのは市場の1%以下といわれるメイドインジャパンのニット製品を、自社ブランドやOEMを通じて提案し続ける米富繊維の強みはどこにあるのか。また目まぐるしく変化する世界情勢により、ふたたび注目を集める国内生産の魅力とは何かを見つけに、ウィメンズプレス、村松が現地を訪れました。

Updated 2022.11.16
米富繊維

山形県山辺町にて1952年に創業したニットメーカー。自社内にニットテキスタイル開発部門を擁し、OEM / ODM / 自社ブランド COOHEM(コーヘン)の3事業でオリジナル性の高いニット製品の企画・生産・販売を手掛けている。

AN ENDANGERED KNITS.

ーまずはSHIPSと米富繊維の関係を教えてください。

米富繊維広報 鈴木さん(以下鈴木さん) : 2010年にスタートした自社ブランド〈コーヘン(COOHEM)〉の最初のバイヤーがSHIPSさんだったと聞いています。

プレス村松(以下村松) : 長いお付き合いで、ウィメンズのオリジナルアイテムも米富繊維さんにつくっていただいているんですよね。

村松 : ここが噂の工場内にあるショップですね。

鈴木さん : はい、今年の8月にオープンした「 Yonetomi STORE」です。オリジナルブランドのほか、OEMなどでお取引のあるアパレルメーカーやものづくりの姿勢に親和性のあるブランドさんのアイテム、ニット専用の洗剤やブラシなどケア商品も扱っています。

村松 : 光が美しく入る吹き抜けですね。

鈴木さん : 1階は自社ブランドの〈ヨネトミ(Yonetomi)〉〈ディスイズアセーター(THISISASWEATER)〉、2階では〈コーヘン〉をメインに扱っており、ご提案するニットの幅広さを知っていただけるかと思います。

村松 : 定期的に工場見学も行っていると伺いました。

鈴木さん : 以前は年4日間ほどの期間限定で行っていたのですが、ショップができたタイミングから毎月第三土曜日に30分ほどぐるっとひと通りご覧いただく見学を行っています。

複雑な編みのプログラミングと希少な糸を使用した、唯一無二のデザインが好評の〈コーヘン〉。

鈴木さん : では早速工場内をご案内します。ここは「編立」と言って工場でのいちばん最初の工程を行う場所。私たちは紡績機能は持っていないので、糸屋さんから糸が入ってきたらこの全自動横編機を使って編み地を編んでいきます。

村松 : 広いですね。全部で何台くらいあるのでしょうか。

鈴木さん : 43台です。ニット工場はハイゲージ用の機械をローゲージ用より多く持っているのが一般的なんです。ハイゲージですと春夏の製品もたくさんあり、年間を通して受注が多いので。ですが私たちの工場では約半数がローゲージ用なんです。編地開発部門がありますので、春夏でも着られるローゲージニットのデザインを考えることができますし。ローゲージに特化した機械の構成にしています。

糸を引っ掛けた編み針が前に出たり引っこんだりすることで編み地ができていく。編み始めは入念に針をチェック。

最近は糸をコーンに巻く業者が少なくなり、染めではなく巻く工程に時間がかかることも多い。

上に置いたコーンから写真の給糸部分を通り、糸が編み針に引っかかっていく。

鈴木さん : 〈コーヘン〉ですとまわりにモールや羽根がついた手芸用の糸を使うことが多いので、ハイゲージ用の細い編み針だと絡まりやすくて。ローゲージの針だとそういった糸も通りやすいんです。

村松 : なるほど。編み上げるのにどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

鈴木さん : クルーネックのシンプルなセーターだと60分程度ですが、〈コーヘン〉の代表的なノーカラージャケットですと240分ほどかかります。編みにくい糸の場合は機械の速度を落としたりして、遠回りしても傷が出にくいように調整するので。量産となるととても効率が悪いんです(笑)。

鈴木さん : ニット製品の作り方には「成型編み」と「カット縫製」という2種類ありまして。トップスでいうと「成型編み」は、前身ごろ、後身ごろ、袖というパーツをそれぞれの形に編み上げ、縫い合わせるもの。「カット縫製」は四角く編んだものをパタンナーが引いた型紙に合わせて切って、ロックミシンでほつれないように加工をしてパーツを縫い合わせていくというものです。通常、機械で編地をプログラミングするときにいろいろと制約があるので、シンプルなものじゃないと「成型編み」が難しいんです。

村松 : PC上のこの画面がプログラミングのデータですか?

鈴木さん : そうです! この画面上の1マスがニットのひとつのループを表しています。マス内の記号が編み組織の指示ですね。

編み上がったらライトにかざして傷がないか確認していく。

鈴木さん : これは「検反」という、機械で編んだものを一枚一枚傷が出ていないか人の目でチェックしていく工程です。機械の針に傷が入っていると、編み上がったすべての編み地に同じダメージが入っていることもあるので。

村松 : それは大変ですね。

鈴木さん : 人の手で直せる傷であれば修正します。

村松 : 機械編みというと全自動なイメージでしたが、人の目や手で調整している部分がたくさんあるんですね。

機械の編み針で始末をするところ。スタッフはちょっとした傷や始末であれば自分で編める人がほとんど。

八角のリンキングミシンでパーツを縫い合わせる。

鈴木さん : こちらが「縫製」の工程です。「成形編み」ではリンキングミシンというニット専用の機械を使います。ベテランの職人が担当すると、針に一目一目挿す工程もサクサクと進むのでぜひご覧ください。

村松 : スピードがすごいですね!

一目ずつ刺してから、アームの両端を縫い合わせる。

鈴木さん : 「カット縫製」ですと上から普通のミシンで叩くので縫い代が少し硬くなるのですが、このように「成形編み」でリンキングミシンを使ってパーツを合わせると柔らかな着心地になるんです。

鈴木さん : 「縫製」ではだいたい3人ごとのラインにわかれて様々な品番を同時に仕上げています。最近は品番は多いのですが、それぞれのオーダー数は少なめなことがほとんどですので。「多品種小ロット」に対応するためにこのような方法をとっています。

村松 : なるほど。効率的なんですね。

ダイヤル式のリンキングミシン。八角のものより長く縫うことができる

村松 : 社員の方は何名ほどいらっしゃるんですか?

鈴木さん : 60名ほどです。ほとんどは山形本社ですが、実は東京にも事業所があって、営業の拠点となっていて、サンプルを置いて貸し出しなども行っています。

身ごろの中心を見失わないように、糸で印をつける。

身ごろ、袖などのパーツを整理し、縫い合わせ、アイロンをかける作業を少人数で行うので、次の工程にすぐ移れるように立って作業するのが米富繊維式。

糸の始末の抜けや、針の混入などがないか入念にチェック。

鈴木さん : ここは最後の「出荷」という工程になります。異物が入っていないかなど検品をしています。

村松 : 机の間のグレーの機械はなんですか?

鈴木さん : 検針機です。ベルトコンベア式のものもあり、ダブルチェックしています。以上、ニットを編んでから出荷するまでをご覧いただきました。

村松 : ありがとうございます!

鈴木さん : 最後に倉庫にご案内します。

鈴木さん : 自社の企画で参考にしたり、OEMの提案用に過去のアイテムやサンプルとして購入したニットを保管しています。服の状態になったもので6000枚以上、スワッチで2万枚以上アーカイブしています。過去のものを取っておくのは工場だとなかなか難しいとは思うのですが、私たちは編地開発部署が社内にあるので必要なんですよね。素材の合わせ方や編みの合わせをデザインしてご提案させていただいています。

村松 : 圧巻ですね。どれくらい前からアーカイブされているのでしょうか。

鈴木さん : 40年以上前のものもあると思います。

村松 : スワッチ上の会社のロゴでかなり昔のものもあるのがわかりますね。

鈴木さん : ニットは編んでみないとわからないところもあって、糸の状態で見るより参考になると思います。来社いただいたデザイナーさんで、半日くらいここに籠られる方もいらっしゃるんですよ。

鈴木さん : こちらは〈コーヘン〉の残反。使っている糸が特殊なものが多く、どうしても一部に傷が出やすいんです。商品として修正できなかったものは取っておいて、傷以外の編み地を小さな小物などにリメイクしています。

村松 : ちょうど 〈コーヘン〉さんの残布でクラッチバッグをカスタムできるオーダー会を全国の店舗で行っている最中です。シート状にしたニットを組み合わせてボタンを選び、自分だけのバッグが作れるというもので、すでに行ったSHIPSなんばパークス店やルミネ新宿WOMEN’S店で好評でした。

COOHEM × SHIPS カスタムクラッチバッグ
各 ¥18,700 (inc. tax)

AN ENDANGERED KNITS.

ー今回の別注はどのようにして誕生したのでしょうか。

米富繊維営業中本さん(以下中本さん) : 3つあるオリジナルブランドのなかでも、ベーシックな美しさを追求した〈ヨネトミ〉の、各方面からご好評いただいているバスクシャツをピックアップされています。

村松 : 以前もニットパーカを別注させていただいたんですよね。

中本さん : 今年の春ですね。パーカはコットンのダブルフェイスで編み立てていてインラインでは表と裏でカラーが異なるんですけど、別注は「表裏同じ色で」とオーダーしていただきまして。さすがだなと感激しました。

村松 : バイヤーが大人の方は同色ですと、より普段のスタイルに合わせやすいかと思ったそうです。

中本さん : バスクニットは、細いコットンを何本もより合わせた強撚のウェーブ糸を使用し度を詰めて編むことで、ニットのらしからぬタフな表情が出るんです。

村松 : もともとユニセックス展開のものから、袖丈を少し短くして女性が着やすいシルエットにしていただきました。冬に映えそうなイエロー×アイボリーと、定番で使えるブラック×アイボリーの色別注です。

SHIPS WOMEN 2022

今回のコラボレーションアイテムをCHECK。

Yonetomi × SHIPS バスクニット
各 ¥17,600 (inc. tax)

Yonetomi  ニットパーカ
各 ¥25,300 (inc. tax)BUY

INFORMATION

〈コーヘン クラッチバッグカスタムオーダー会〉
SHIPS 名古屋ラシック店
2022.11.20(日)まで開催中

  • Photography_Jun Nakagawa
  • Interview & Text_Reiko Matsushita
  • Design & Development_maam.inc
  • Edit_MANUSKRIPT