SHIPS MEN

FEATURE

Noriyuki Ueki ( Sartoria Ciccio )

Yuya Hasegawa ( Brift H )

直接手に触れるものだけに、経年変化の醍醐味を存分に味わえる革小物。大切に使い込んで自分だけの味が滲み出た品々は、トレンドを超越した輝きを放ちます。ものづくりに一家言あるアルチザンたちが長年愛用する逸品を通して、時を超える革小物の魅力に改めて迫ってみましょう。

Updated 2024.03.13

Leather Goods For Life

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独創性にあふれた唯一無二の作風

日本だけでなく、世界各国のスーツ好きがこぞって訪れる大人気ビスポークテーラー・上木規至さんが愛用するのは、かなり使い込まれた<イル ミーチョ>のキーケース。およそ8年前、代表の深谷秀隆さんがフィレンツェに構えるアトリエで購入したものです。

「深谷さんとは、私がナポリのサルトリアに弟子入りして修業をしていた時代に知り合いました。実は私のお客様第一号は、彼の奥様なのです。その後もいろいろな人に紹介してくれたこともあり、彼がいなければテーラーとしての私は存在しなかったかもしれません。

そんな無二の恩人である深谷さんですが、アルチザンとしても他に類を見ない存在だと思います。彼のすごいところは、クラシックへの深い造詣がありながら感覚に傾倒できること。聞いた話ですが、ある人が深谷さんのアトリエを訪ねると、彼がお客様に納品する靴を磨いていました。その様子を見ていると、時折意味ありげに、タバコの煙を靴にふ〜っと吹きかけている。 “それってどういう効果があるのですか?”と尋ねると、ひとこと“雰囲気!”と答えたそう。そういうアーティスティックなところが、革小物の独創性にも表れていると思います。

それからもちろん、経年変化の美しさも魅力。このキーケースはヌメ革で、最初はベージュだったのですが、使い始めるとすぐに色が変わってきました。同時に革がほどよく潰れてきて、手馴染みもよくなった。使い込んだあとの表情もきっと計算されているのでしょうね」

Card case , Coin case , Money clip
(Ortus)

シンプルの中に宿る磨き抜かれた職人技

小松直幸さんが手がける<オルタス>のハンドメイド革小物も愛用中。いずれも10年選手で、同じ革で統一しています。「マネークリップとコインケースはオーダー品、カードケースは、たまたま既製品で同じ革のものを見つけたので購入しました。コバの仕上げといい緻密な縫製といい、さすがハンドメイドという佇まいですね。私も手縫いでスーツをつくりますが、革小物となると到底マネできません。シンプルな構造に見えて、職人技が凝縮されているということですね」

“いいもの”の真価は時を経てこそ現れる

レザーアイテムと聞いて上木さんが思い出すのは、ニューヨークで目にした見知らぬ女性のバッグだそう。

「あるホテルのロビーに入ると、向こうから<エルメス>のケリーバッグを携えた女性が歩いてきたんです。よく見ると、かなり使い込まれて味が出ていました。その佇まいが、なんとも格好よかったんです。ブランドもののレザーバッグってピカピカなイメージがあるのですが、経年変化すると独特の抜け感というか、ほかに変えがたい洒脱さが生まれるものなんだなと実感しました。

ビスポークスーツにしても、仕立て上がったばかりよりも着込んで少しヨレてきたくらいのほうが雰囲気が出て格好いい。ですので、しっかりと手が入った“いいもの”の真価は、時を経て初めて現れるのだと思います」

上木 規至 / Sartoria Ciccio代表

1978年生まれ。リングヂャケットでスーツ作りを学んだのち、さらなる修業のためナポリへ渡航。当地のサルトリア<ダルクオーレ>、<アントニオ パスカリエッロ>で技を磨く。2006年に帰国して<チッチオ>を創業。2015年、青山に自らのサルトリアをオープン。

Leather Goods For Life

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水ジミすら味にしてください、
というメッセージを感じて。

革の魅力、経年変化の醍醐味を知り尽くした長谷川さんが、プライベートで愛用する革小物ってどんなものなんだろう……? いろいろと想像を膨らませつつ取材を願い出ると、ご披露いただいたのはまさかの<ステューシー リビン>!予想外すぎるチョイスに驚かされました。

「入手したのは2013年ごろ。ブランドが立ち上がって間もないときに、ホームページに掲載されているのを見て衝動買いしました。革巻きのスキットルに往年の映画的ロマンを感じた一方で、あえてヌメ革を使うという挑戦的な素材選びにも心惹かれましたね。普通、水ジミや酒ジミが目立たないよう濃色の革にするじゃないですか。それをあえてヌメ革にしているというのは、ガシガシ使い込んでとことん味を出してくださいというメッセージなのかなと。革好きとしてこれは刺さりますよね。

今までは実際にお酒を入れて常時携帯するというよりも、インテリア的に飾っている時間が長かったので、まだまだ味は出ていません。でも最近は歳を重ねてスキットルが似合うオヤジになりつつあるかなと感じるところもあり(笑)、これから実用品として使い込んでいこうと考えています。キャンプに連れていってもいいし、パンクスプリング(春に開催されるパンクロックのフェス)に持っていくのもよさそう。これからの経年変化を思うと胸が高鳴りますね」

Wallet , Card case
(T.MBH, Crevaleathco)

気鋭のアルチザンがつくる
手縫いの
革小物も愛用中

意外な革小物をご紹介いただいた一方で、財布や名刺入れはクラシックなアルチザン系をご愛用。
「財布は手縫い革小物ブランドの新鋭<クレバレスコ>でオーダーしたもの。4年ほど愛用しています。クロコダイルの革小物はそれまで持っていなかったのですが、やはり唯一無二のオーラがありますね。もともとはマットクロコだったのですが、使い込むうちにツヤが出て、今はこんな風合いになりました。ちなみに内側はイエローを選んで開運を狙っています(笑)。
名刺入れは2021年に仕立てたもの。<T.MBH>を手がける岡本拓也さんをブリフトアッシュに招待してトランクショーを行ったのですが、その際に製作いただいたブリフトアッシュ別注モデルです。僕が大好きな“パンク”をテーマに、ミュージアムカーフにウォッシュをかけた革を採用しました。<BRIFT H>のロゴ上につくウムラウト風の飾りをイメージして、二連のスタッズを打っているのもポイントです」

革小物は“化粧”ができない。
だからこそ育てがいがある

さながらマジシャンのような鮮やかさで靴に輝きを与える長谷川さん。靴・鞄・革小物に共通する魅力は経年変化だと前置きしつつ、「革小物ならではの醍醐味は、“化粧ができないこと”にこそある」と話します。

「靴の場合、カラークリームやポリッシュなどを駆使して、さまざまな革の表情を演出することができます。いわば化粧ができるわけですね。しかし革小物の場合、直接手や服に触れるものということもあって、そういった化粧を施すことはまずありません。しかしだからこそ、使う人の個性を反映した唯一無二のエイジングが生まれてくるのです。それゆえに、長年使い込んだ革小物は手放せなくなるほどの愛着が湧いてくる。いわば、革と真正面から向き合えるのが革小物の妙味といえるのかもしれませんね」

長谷川 裕也 / Brift H 代表

1984年生まれ。靴磨きのイメージを変え、「シューシャイナー」という新しいアルチザン像を確立した立役者。2017年には靴磨きの世界大会で優勝に輝く。不惑の節目を迎え、今年4月末をもって“靴職人”を引退。今後は“靴磨き家”として新たな次元で挑戦を続ける。

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