SHIPS WOMEN
JOURNAL

長い付き合いになる〈TICCA〉の展示会にお邪魔し、今季バイヤー河田が驚いたのはブランドの象徴的なアイテムであるテントコートのカラーバリエーションについてでした。各色のイメージに最大限近づけるために、染色方法をそれぞれ変えているというのです。ビジネスだけの関係では受け入れてもらえないその“手間”は、色が表現できることにこだわるブランドの情熱と、それを叶える工場の確かな技術によって成り立っていました。

Updated 2023.11.22

TICCA

2016年春夏よりブランドスタート。素材や手法にこだわり、タフさと上品さを兼ね備えたアイテムを展開する。着る人に寄り添い、より魅力的に見せてくれるデザインにファンが多い。

https://ticca.jp/

生地を掻いて起毛させたあとぐっと抑えることで、角がはっきりとして凛々しい印象に。

ー展示会で伺ったテントコートのエピソードをよりよく知りたいと思い、今日は工場にご案内いただきました。

SHIPS : TICCAさんがここの工場で染色される理由は?

TICCA : このアウターはご好評いただいており、毎年少しずつ仕上げ方を変えています。今年は5色展開しているのですが、なかでもネイビーとグレーの色のよさを出すためにどうすればいいか悩みまして。その際にも前向きに細かく相談に乗っていただきました。風合いのつくり方が本当にレベルが高く、すごく信頼しています。

SHIPS : グレーとネイビーはそれぞれどのようなイメージに仕上げたかったのでしょうか。

TICCA : 2023年秋冬は「PLAYING WITH TRADITIONS」というテーマなので、濃い色はいつもより起毛感を抑えて凛々しくしたいと思いました。とくにネイビーはこれまで丸みのある表情が多かったので、ソリッドな方向に持っていきたくて。逆にグレーはけっこう男っぽくなりがちなので、やわらかい表情を出すためにベージュを入れ込めないかと思い立ちました。それで工場さんに相談したら、やってみましょうと言っていただけたんです。

グレーにベージュを混ぜた糸を使用し、表情の柔らかい仕上がりに。

SHIPS : 普通は取り合ってもらえないことが多いですか?

TICCA : 多いですね(笑)。今シーズン出しているベージュも「ベージュ1」「ベージュ2」みたいな感じでバリエーションをつくっていただき、ひとつに絞ったんです。やりたいことに対してしっかりリアクションしてくれて、「もっとこういった染め方もできます」とか「糸をいっしょにつくりますか?」とまで言ってくださるので。こんなに寄り添ってくれる工場さんって探しても本当にないんですよ。正直、そこまですると利益が出るかどうか…というレベルだと思うので。

SHIPS : ビジネス上の関係だけじゃない信頼感がありますね。

TICCA : 現場で仕事をしているみなさんの雰囲気を見ていても、それぞれ自分の仕事にプライドを持っているのが伝わってくるんです。人によっては名刺に「◎◎マイスター」って肩書きがついていたり、地元の若い方を育てようとしているのも素敵で。自分たちが仕事をするうえでも、こういうしっかりとした工場さんと付き合い、お金を流通させることで間接的に社会貢献になっているかなと考えていまして。技術だけじゃなく、工場さんとはマインド的な部分も繋がっていたいと思います。

SHIPS : ではいよいよ染め方の違いを教えてください。

TICCA : ネイビーは糸を織って反物にした状態で染める「反染め」、グレーは糸になる前の羊毛綿の状態で染める「トップ染め」をしています。原料はどちらも同じラムウールですが、工程がまったく違うので比べてみるともはや違う生地に見えるほどです。染め方に関しては工場の方からご説明いただいた方がいいかもしれませんね。

原料は羊毛綿の状態で工場に届く。これを引き延ばしヨリを掛けることで糸になる。

工場 : 染色には「羊毛綿の状態で染める方法(トップ染め)」「糸で染める方法(糸染め)」「反物で染める方法(反染め)」の3つがあります。トップ染めは杢っぽい表情がつくれたり、同じ色を量産できるメリットがあるのですが、糸になってから製品になるまですごく時間がかかるんです。

TICCA : グレー単体でも杢っぽい表情は出るのですが、ここにさらに杢ベージュの糸を入れています。何度も話し合って生まれた色なので、このグレーはありそうだけど、どこにもないと自信を持っています。

SHIPS : 一色生み出すのにもすごい労力がかかっているんですね。

TICCA : SHIPSさんもうちも、ベーシックをとても大切にしている会社だと思います。ぱっと見はわからないけど、巷に溢れているものとは確実に違う。そんな「見たことありそうだけど、誰も見たことないもの」をつくりたいという気持ちをこめて作った色なんです。

糸染めは芯の部分と、外側が同じように染まるかがキモ。糸を繋いだときに色の差が出ないように、内側に穴が空いた芯に巻き付けて染料が均等になるような工夫を施している。

糸ができたら、次は織りの工程へ。まずは縦糸を並べる。150cm幅に対して、生地によっておよそ3000〜1万本の縦糸を使用。

工場 : うちの工場でいちばん多くご注文をいただくのが糸染めです。糸さえあれば無地はもちろん、チェックなどの柄もできます。機械も充実しているので、単色で660kgを染めることも可能です。

一反をループ状にして染液の入った槽にローラーでごろごろと回す「反染め」。ウールは90度程度で色がつく。ポリエステルなどは120度ほどの高温が必要になるので、化学繊維の場合は異なる機械を使用する。

工場 : 反染めの最大の特徴は生地さえあれば1週間くらいで完成することです。織った布を高い温度で炊くので、縦糸と横糸の交差している部分がやわらかくなり、風合いがソフトになるんです。最大のデメリットは例え同じ条件でも、気温や湿度などが変わると多少の色の差が出てしまうことですね。

TICCA : ネイビーはSHIPSさんもコーポレートカラーにされていますが、うちもトラッドをベースにしているので欠かせない大切な色です。今シーズンは鉄紺に近い色で、普通のネイビーよりかなり濃くしました。

SHIPS : 濃いネイビーって色を出すのが難しそうですね。

TICCA : そうなんです。今日みたいに工場の苦労を目の当たりにすると言いにくいんですけど(笑)。色の出方が違うなど、技術的なことに関しては嫌われてでも伝えるべきなのかなと思っています。

SHIPS : こちらではすべての染め方ができるから相談しやすいんですね。

工場 : そうですね、染め方の特徴を理解すると、よりおもしろいものが生まれると思います。

フラノやメルトンの場合、起毛機で5〜10回程度生地の表面を引っ掻き、繊毛機で刈る作業を繰り返す。そうすることで繊細な表面感が生まれ、さらに毛玉ができにくくなるというメリットが!

染色や加工を終え、仕上がった生地の検査を行う。1人の検査員が見るのは、1時間に6-7反で、1日に40反(長さ2000mくらい)程度。

TICCA : テントコートは染色もですが、生地の加工もカラーによって変えています。ネイビーは、生地を掻いて起毛させた後にぐっと抑えていて、グレーは掻いてから整えることでふんわりとした表面感を出しています。光沢感も全然違うんですよ。

SHIPS : その色の表現方法で仕上げまで変えるんですね。

TICCA : 色ごとに加工を変えるのは、ほとんどのブランドさんはやってないと思います。でも色の魅力はそれぞれ異なるので、そのカラーに合う仕上げをするというのが今年のテントコートのこだわりです。

生地を洗いフェルト化する「縮絨」の工程。このあと「反染め」に回される。

工場 : TICCAさんのテントコートの工程は以上になります。

SHIPS : ありがとうございました!