SHIPS 50th ANNIVERSARY

NYトラッド

2025.06.13

NYトラッドの流れが
SHIPS 銀座店を生み、
その流行は女性をも魅了した

remember
me?
column.

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1950〜70年代、日本のメンズファッションのお手本になったのはいつもアメリカでした。それは上野・アメ横のMIURAでも、渋谷のMIURA & SONSでも同じでした。2つの店が扱うアイテムのほとんどはカジュアルで、カリフォルニアを中心にしたアメリカ西海岸の若者たちが好むスタイルをイメージした商品構成でした。一方、1977年に銀座に開いたSHIPSの1号店は、ブレザー、チノパン、ローファーといったトラッドなアイテムが中心で、ほとんどが輸入商品という当時では異色の店でした。
「1975年に(読売新聞社から)『Made in U.S.A. catalog』が発売になり、それまでの“アメリカ風”ではなく、SHIPSにはアメリカの“本物”が集められていました。店の場所は銀座でも一本入ったところにあり、ミステリアスな新しいものを探している人たちにとっては、うってつけの品揃えの店でした」
現在SHIPSのメンズクリエイティブアドバイザーを務める鈴木晴生は、最初のSHIPS 銀座店の印象を話します。当時はラルフ・ローレンに続いて、アラン・フラッサー、ジェフリー・バンクス、サルヴァトーレ・セザラニといったニューヨーク派のトラッドデザイナーが続々とデビュー、アメリカのファッションの流れがアメリカ西海岸のカジュアルから、デザイナーを中心にしたニューヨークの新しいトラッドへと大きく変化した時期でもありました。
「当時、私はトラッドメーカーで働いていましたが、人気があったアイテムで“トラウザーズスカート”がありました。メンズのチノパンをそのままスカートにしたデザインで、日本でやっているところはどこにもなく、飛ぶように売れました」と鈴木は振り返ります。
メンズだけでなく、ウィメンズにもトラッドの波が押し寄せたのがこの時代の特徴ですが、1980年、銀座にSHIPS LADIES 銀座店がオープンします。「最初はSHIPS 銀座店の中にユニセックスやエイジレスで女性でも着られるものを置いていたのですが、女性客がすごく増えて、スーツ等を買いに来た男性が買える状態ではないと、同じ通りの一丁目寄りの場所に最初のSHIPS LADIESを開きました。(品揃えは)メンズからそのままスライドして、アメリカンスタンダードをベースにしたウィメンズが中心。自分が好きだったこともありますが、これに加えてブリティッシュやフレンチ的なコーディネート、着方が楽しめるアイテムを揃えました」
こう話すのはSHIPS LADIESの立ち上げにかかわり、SHIPSのクリエイティブアドバイザーを務める三井田悦子です。2014年、1号店だった場所にSHIPS Primary Navy Labelを開きますが、現在、三井田はこの店のバイヤーも務めています。「当時とはサイズバランスなどは変わっていますが、SHIPS Primary Navy Labelに並べているアイテムは昔と変わっていないのです」と三井田は話します。昔も今も、メンズでもウィメンズでも、SHIPS創業以来の思想がスタンダードにあることを証明しているような話です。

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1977年のSHIPS 銀座店がオープンしたころから店先を飾っていたのが、アメリカのバッグブランドのグルカです。1975年にアメリカのコネチカットで創業、ブランド名は創業者マーリー・ホッジソン氏がロンドンで出会ったグルカ兵が愛用した革製品に由来します。現在でも手作業でバッグを仕立てる稀有なブランドです。SHIPSの50周年を記念して、 同ブランドを象徴するモデル、No.5「エグザミナー」を別注しました。グルカと並んで当時SHIPS 銀座店で人気が高かったのが、グローブレザーを素材に使ったローファーやモカシンです。これもSHIPSの50周年を記念して、アメリカのシューズブランド、ランコートに別注しました。ランコートは1967 年、アメリカ東海岸のメイン州で創業した歴史あるブランドです。今回別注したモデルは70年代にSHIPSで販売していた靴のデザインを再現したもので、モカシンにはイエローラバーのビブラムソールを、ローファーには上質なレザーアウトソールを採用、クラシックな佇まいの中に当時のアメリカントラディショナルの新しい流れを感じさせるデザインです。

GHURKA ¥275,000

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RANCOURT ¥79,200

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アイビーリーグなどのアメリカの有名大学を目指すプレッピーたちを描いた『THE OFFICIAL PREPPY HANDBOOK』(Workman Publishing)がアメリカで発売されるのは1980年。この本はファッションにも大きな影響を与えますが、日本でもこの流れを汲んだ本が続々と出版されました。『メンズクラブ』がアメリカ東海岸のファッションを特集した「イーストコースト特集号」という増刊号を発売するのが1979年。翌1980年には現地のスナップ写真やショップなどの情報で構成されたムック本『AMERICAN CLASSIC』(婦人生活社)も発行されます。ブレザーにチノパン、靴はローファー、バッグはグルカという現地のニューヨーカーのスタイルが紹介されています。インターネットがない時代、情報は雑誌を通じて入手する、そんな時代です。「当時、参考にしていた本は『THE OFFICIAL PREPPY HANDBOOK』や『Cheap CHIC』だったと思います」。そう話すのはSHIPSのクリエイティブアドバイザーの三井田悦子です。『Cheap CHIC』は、1975年にアメリカのHarmony Booksから発行された名著です。

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SHIPSのメンズクリエイティブアドバイザーを務める鈴木晴生は、70年代のファッションを考える上でお手本になる映画と絶賛するのが『ある愛の詩』(70年)です。アイビーリーグのハーバード大学に通うオリバー(ライアン・オニール)とセブンシスターズの名門、ラドクリフ大学に通うジェニー(アリ・マッグロー)とのラブストーリーで、日本でも大ヒットしました。アリ・マッグローはその前年に『さよならコロンバス』という映画にも女子大生の役で主演していますが、鈴木はこの作品での彼女のスタイルも素晴らしいと話します。「どちらの映画も男性のスタイルはトラッド。でも女性はこの時代、カジュアルを上手に取り入れています。時代の空気をつかみ取るのは女性の方が早い。特に『さよならコロンバス』でのアリ・マッグローは、バミューダショーツの着こなしやボタンダウンシャツの長さだとかがとても洒落ていました」と鈴木は話します。2つの作品でも描かれたように、アメリカ東海岸を中心にした新しいトラッドスタイルは女性にも支持を受け、80年のSHIPS LADIESの誕生へと繋がりました。